Archive for the ‘相続税・贈与税関係’ Category

生命保険契約等の一時金の支払調書

2016-09-20

 生命保険会社が次のような保険金を支払った場合には、税務署にその支払った旨を知らせる「支払調書」が提出されます。

・1回の支払金額が100万円を超える死亡保険金、満期保険金、解約返戻金等

・同一人に対しる年間に20万円を超える年金給付金

 一方、次のような場合には支払調書は今現在は提出されません。

・契約者(保険料負担者)と被保険者が同一人でないケースで契約者が死亡して契約者名義を変更した場合
 → 解約返戻金相当額が相続財産として相続税の課税対象となっています。

・契約者名義を変更した後に死亡保険金、満期保険金、解約返戻金を受取った場合
 → 変更前の契約者が支払った保険料に対応する受取金は贈与税の対象となります。

そこで、平成27年度税制改正により、

・保険会社等は、生命保険契約等について死亡による契約者変更があった場合には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額を記載した調書を、税務署長に提出しなければならないこととする。

・生命保険金等の支払調書について、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することとする。

という規定が設けられました。
 この改正は、平成30年1月1日以降の契約者変更について適用されます。
 では、契約者変更は今のうちに行うべきでしょうか?

 この改正は、あくまでも課税資料の提出範囲についてのもので、課税対象についての改正ではありません。これを見て、慌てて名義変更をし、正しくない申告をするような行為は、補脱犯に等しいものと考えます。

 それよりも、この支払調書の改正を切っ掛けに、もし今まで誤った課税関係の理解のもと、誤った相続対策等をしていたとしたならば、正しい理解による正しい相続対策等に切り替えていただきたいと思っています。

 現在着手中の相続対策など、一度見直して見られてはいかがでしょうか。

真田丸にみる秀吉の遺言状

2016-08-27

 NHKの大河ドラマ「真田丸」第31回「終焉」では、死期の迫る秀吉の遺言状を巡り対立する家康と三成の攻防が描かれていました。遺言状の書き替えや書き足しなどもありましたが、現在の遺言での取扱いはどのようになるのか、疑問に思われた方も多いのではないでしょうか。

 遺言が複数ある場合、新しい日付のものが優先されます。これは、法律では、新しい遺言書によって、古い遺言書の内容は取り消されたものと見なされるからです。

 自筆遺言については、訂正というかたちで、書き足しもできないことはありません。しかしその場合は、通常の加除訂正の方法によります。つまり、1)間違った部分を訂正部分が読み取れるように二重線で消し、その近くに正しい文言を記載する、2)訂正した部分に訂正印を押す、3)欄外の空白部分に「○行目、○字削除、○字加入、署名」を記載するといった手順を踏まなければなりません。
 ドラマでは、右端の余白に、追記事項を記す方法をとっていましたので、「以上」と記すことにより、追記を認めないということになったのでしょう。

 ところで、現在でも、遺言のこのような性質から、その真贋や有効性が問われ訴訟となることも珍しくないようです。有名なところでは、帆布店の相続、変わりどころでは花押の押された遺言の有効性が問われたものがあります。そこで、遺言ではなく、信託を利用して、遺贈と同じ効果を持たせようとする試みが注目されています。

 確かに、遺言は、被相続人の一方的な行為ですので、遺贈を受ける方にとっては、その地位が安定しないというリスクがあります。その点、信託は契約ですので、契約者の地位が安定されるという面があります。

 では、秀吉の場合に、信託の方法をとっていたとしたらどうでしょうか?
まず、信頼できる受託者が、その時代では存在しないということはあります。ですが、受託者が確保できたとしても、信託自体の性質による限界があります。

 信託の本質は契約の束です。ですので、生じうるあらゆる事態に想定して設計する必要があります。知将三成がいかに想定しようと、家康側は契約の穴をついて攻勢にでるでしょう。あの時代ならば、契約が履行されないリスクもありますしね。

 とはいえ、信託の活用により、遺言の書き替えなどのリスクに備えるというのは、大変有効な方法です。検討してみられる価値は十分にあると思います。

特定障害者に対する贈与税の非課税

2016-08-24

 障害者の方の生活の安定を図る方法として、信託を利用するものがあります。
基本的には、親族の方が委託者となり、信託銀行を受託者とし、扶養信託契約を締結し、障害者である受益者の方が定期的に生活資金等を受け取る仕組みです。
委託者と受益者が異なる信託ですので、「他益信託」となり、原則として信託の際、障害者である受益者の方が、その親族である委託者から贈与を受けたとして、贈与税が課されます。

 しかし、それでは、障害者の方の生活を支援する効果が減らされてしまいますので、一定の障害者扶養信託契約につきましては、信託の際、一定の金額については贈与税を非課税とする特例が設けられています。

 対象となる信託は、「特定贈与信託」という商品名で取り扱われています。対象となる障害者は特定障害者といい、重度の心身障がい者、中軽度の知的障がい者および障害等級2級または3級の精神障がい者等となります。

 受益者への給付方法は、各信託契約により定められていますが、受託金額6000万円の場合、信託期間を最長30年間とし、毎年200万円給付するとした例があります。また、商品自体には元本割れのリスクがある他、手数料の負担も生じます。運用益については所得税が課税されることになります。 

 特定障害者が死亡した際の残余財産は、その相続人または受遺者に交付されます。また、信託する際に、ボランティア・障害者団体や社会福祉施設等を指定しておくと、残余財産を寄附して他の障害者のために活用することもできます。

 肝心の非課税限度額ですが、その信託受益権の価額のうち、重度の方に特定障害者の方については、6000万円、それ以外の特定障害者の方については3000万円までの金額となります。
 
 特定を受けるためには、信託の際に信託会社の営業所等を経由して「障害者非課税信託申告書」に次の書類を添えて、納税地の所轄税務署長に提出することとなります。

① 特定障害者扶養信託契約書の写し
② 特定障害者(特別障害者を除く。)又は特別障害者であることを証する書類
③ 信託受益権の価額の計算の明細書
④ 特定障害者の住民票の写し

 

住宅取得等資金の贈与特例

2016-08-07

 消費税率引上げ時期の変更に伴い、住宅取得等資金の贈与特例の非課税限度額に関して改正が行われる見込みです。

 住宅取得等資金の贈与特例とは、父母や祖父母から住宅を取得等するための資金の贈与を受けたときに、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、その資金をもって、自分が住むための家屋の新築、取得、増改築等の対価に充て、実際に新築若しくは取得又は増改築等をし、その日までにその家屋に住み始めたとき、又は、なるべく早く住み始めることが確実であるときは、贈与を受けた住宅取得等資金のうち一定金額について、贈与税が非課税となる制度です。

 この「一定金額」が住宅用家屋の取得等のための契約締結期間に応じ、それぞれ異なることとなるのですが、このほどこの対応期間が改正される見込みです。
 改正後の非課税金額は次にようになります。なお、括弧内の金額は耐震等級2以上であること又は免震建築物であること)に該当する住宅用家屋であること等について、一定の書類により証明された場合です。

イ 次のロ以外の場合
●平成28年1月~平成32年3月の契約締結の場合
 700万円(1200万円)
●平成32年4月~平成33年3月
 500万円(1000万円)
●平成33年4月~平成33年12月
 300万円(800万円)

ロ 住宅用家屋の取得等に係る対価の額又は費用の額に含まれる消費税等の税率が10%である場合(特別住宅資金非課税限度額)
●平成31年4月~平成32年3月
 2500万円(3000万円)
●平成32年4月~平成33年3月
 1000万円(1500万円)
●平成33年4月~平成33年12月
 700万円(1200万円)
 
 住宅取得等資金の贈与特例については、贈与を受ける方の要件も重要ですので、確認しておきましょう。次の(1)~(4)の要件をすべて満たさなければなりません。

(1) 次のいずれかに該当する者であること。
イ 贈与を受けた時に日本国内に住所を有すること。
ロ 贈与を受けた時に日本国内に住所を有しないものの日本国籍を有し、かつ、受贈者又は贈与者がその贈与前5年以内に日本国内に住所を有したことがあること。
ハ 贈与を受けた時に日本国内に住所も日本国籍も有しないが、贈与者が日本国内に住所を有していること。

(2) 贈与を受けた時に贈与者の直系卑属であること。
なお、直系卑属とは子や孫などのことですが、子や孫などの配偶者は含まれないので、注意しましょう。

(3) 贈与を受けた年の1月1において20歳以上であること。
1月1日で判定ですので、ここも注意です。

(4) 贈与を受けた年の合計所得金額が2000万円以下であること。

 住宅取得等資金の贈与特例については、住宅についての駆け込み需要がなくなったことから、非課税限度額の改正を期待するむきもあるようです。一方、税率引上げ時期変更により、財政健全化の要請もありますので、今後の動きは何ともいえないというのが、今現在の状況です。

相続税申告書の新たな添付書類

2016-07-26

 まだかまだかと待っておりました、「平成28年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について(法令解釈通達)」が6月20日に国税庁のホームページに掲載され、また、今月に入りまして、平成28年分の路線価図等が公開されましたことにより、当事務所の業務も俄然熱気を帯びて参りました。
 そして、ここに来て注意事項です。
 平成28年相続開始分より、相続税の申告書にマイナンバーを記入することが、必要となりました。そこで、そのマイナンバーについて、税務署にて、(1)番号確認を行うための書類と、(2)身元確認を行うための書類が、新たに添付書類として追加されました。
(1)番号確認書類(マイナンバー(12桁)を確認できる書類)として次に掲げるいずれかの書類
・マイナンバーカード(個人番号カード)【裏面】の写し
・通知カードの写し
・住民票の写し(マイナンバーの記載があるものに限ります。)
(2)身元確認書類(記載されたマイナンバーの持ち主であることを確認できる書類)として次に掲げるいずれかの書類
・マイナンバーカード(個人番号カード)【表面】の写し
・運転免許証の写し
・身体障害者手帳の写し
・パスポートの写し
・在留カードの写し
・公的医療保険の被保険者証の写し
このなかで、マイナンバーの記載がある住民票は、本人しかとることができないので、要注意です。職権や委任状では、請求は可能ですが、住民票そのものは、本人の住所に郵送となります。

相続人に未成年者がいる場合の相続税の申告

2016-02-24

 ご両親に未成年の子という家族で親に相続が発生した場合、遺産分割協議をするためには家庭裁判所で特別代理人の選定をしなければならないとされています。それは次のような理由です。

1.未成年者は、原則として単独で法律行為ができないこと。
 未成年者については、法定代理人(親権者または未成年後見人。一般的には親)の同意があって、初めて完全に有効な法律行為をおこなうことができます。これは民法第5条第1項(未成年者の法律行為)を根拠とします。
 民法では、未成年者は、判断力が備わっていないとされており、不利な内容の契約を結んでしまわないように、強力に保護されているのです。

2.法定代理人と未成年者の利益は相反するため、法定代理人では代理人になれないこと。
 遺産分割協議において、被相続人の配偶者である親と子の利益が相反することとなります。そこで、親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならないとされており、そのため遺産分割協議のため、特別代理人の選定をする必要がでてくるのです。

 また、子が2人以上いる場合、それぞれの子の間でも利益相反となるため、それぞれ別の特別代理人を選定しなければなりません。これらは、民法第828条(利益相反)の規定です。

 ところで、そのような場合に、相続税の申告書には、どのように記名押印すべきか、迷うことがあります。選定した特別代理人が記名し、押印することとなるのでしょうか?
 
 結論から言うと、意思能力がないと思われる未成年者(学校に上がる前の幼児など)を除き、未成年者本人が記名押印をすればいいということとなります。
 なぜならば、申告書の提出自体は、一般に法律行為とはされていないのです。したがって、民法第5条の制約は受けないこととなります。ただし、意思能力がないと思われる者については、代理人が行うという整理です。したがってこれは利益相反とは関係がありませんので、親権者が記名押印して構わないということになります。

相続人の中に障害者がいる場合の相続税額の計算

2016-02-03

 相続税額の計算では、算出相続税額から、税額控除できる次の6つの特例があります。
 (1) 贈与税額控除、(2) 配偶者控除、(3) 未成年者控除、(4) 障害者控除、(5) 相次相続控除、(6) 外国税額控除
 相続をした人の事情により、相続税額からこれらの6つの税額控除をマイナスして納付税額を抑えることができます。

 一般的によく使われるのは、配偶者控除(配偶者の税額軽減)です。
 配偶者控除とは、配偶者の取得財産の価額が、1億6000万円と配偶者の法定相続分のどちらか高い金額まで非課税となる制度です。

 そして、よくいわれることが、とはいえ次の相続を考えた場合に、配偶者控除の上限まで配偶者の取得財産を持っていくことは、お勧めできないということです。
 つまり、配偶者は被相続人と同世代のため、取得した財産が次の相続の相続財産に含まれることとなる可能性が高く、第1次相続と第2次相続をトータルに考えた場合、却って税額が多くなってしまうというのがその趣旨となります。

 ところで、ここでは、配偶者が障害者の場合の、税額控除の利用について考えてみます。
 障害者控除とは、財産を取得した相続人が85歳未満の障害者のときは、相続税の額から一定の金額を差し引くことができる特例です。

 この特例を受けることができる人は次のすべての要件を満たす人です。

(1) 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人
(2) 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である人
(3) 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。

 これらを満たす人は、満85歳になるまでの年数1年(年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。)につき10万円(特別障害者の場合は1年につき20万円)で計算した額を算出相続税額から控除できます。

 そして、この障害者控除については、面白い特例が付されています。上記のようにして計算した障害者控除額が、その障害者本人の「算出相続税額」より大きいため控除額の全額が引き切れないときは、その引き切れない部分の金額をその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くというものです。(同様な特例が、未成年者控除にもありますが、ここでは触れません。)

 つまりは、何らかの財産を取得した相続人の中に、日本国内に住所がある法定相続人である障害者がいるならば、その者の障害者控除の金額を、障害者本人だけでなく、扶養義務者である他の相続人の相続税額から控除できるのです。

 この場合の扶養義務者とは、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の者をいいます。

 相続税額の計算は、最初にご紹介した(1)~(6)の順番で行います。しかし、障害者控除を活用しようと思う場合は、配偶者控除の利用の前に障害者控除の全額利用を考えます。
 そのうえで、配偶者控除の利用額を考えることとなります。それは、配偶者が障害者である場合も同じで、配偶者控除と障害者控除はダブル適用ができるのです。

 極端な例として、相続財産が1億6000万円以下の場合に、すべての財産を配偶者が相続するとします。その場合は、障害者控除を利用する余地はありません。そして、第二次相続がおこった場合は、配偶者が取得した財産が相続財産に含まれることになります。

 しかし、第一次相続で、障害者控除額に対応する財産を子が取得することとし、残りを配偶者が取得することとした場合は、第二次相続に含まれることとなる配偶者の取得財産を少なくすることができます。
 子が、被相続人の配偶者、つまり親を扶養する義務があること(扶養義務者であること)は、言うまでもありません。
 また、子にとっても、残された親の扶養義務を果たす上でも、ある程度の財産を取得した方が、安心ということになります。

 上記は単純化した例ですが、このように遺産分割においては、それぞれの相続の事情を踏まえて、何通りかのシミュレーションをして、考えてみることが大切となります。

相続により取得した上場株式等を譲渡する場合

2016-01-29

 被相続人が所有していた上場株式等を譲渡したときにも、所得税の申告が必要となります。この場合の取得価額は、被相続人の取得価額を引き継ぐこととなります。とはいえ、被相続人の取得価額が分からないことは珍しくありません。株式の譲渡所得の金額は、売却金額から取得価額と売却手数料を差し引いて計算するため、取得価額が分からないと困ったことになります。

 取得価額が分からないものを譲渡した場合に、取得価額の額を売った金額の5%相当額とすることができるという特例がありますが、それだと売買金額のほぼ95%に対して税金がかかってきます。なんとか実際の取得価額を知りたいところです。

 国税庁のホームページでは、取得価額は次のようにして確認できるとあります。

1.証券会社などの金融商品取引業者等から取引報告書が送られてくる場合
 この取引報告書で確認できます、その他には、取引残高報告書、月次報告書、受渡計算書などの書類で確認できる場合もあります。

2.取引した証券会社が分かる場合
 証券会社の「顧客勘定元帳」で確認できます。過去10年以内に購入されたものならば、取引した証券会社に問い合わせます。会社によっては、10年より前の取引情報が保存されている場合もあります。

3.日記帳、手帳、メモなどがある場合
 これらがあれば、その金額で計算して構いません。また、取得時期のみが確認できる場合には、その取得時期を基に取得価額を算定しても差し支えないとしています。

4.1~3のどれによっても確認できない場合
 名義書換日を調べて取得時期を把握し、その時期の相場を基に取得価額を算定します。

 例えば、発行会社(株式の発行会社が証券代行会社に名義書換業務を委託している場合にはその証券代行会社)の株主名簿・複本・株式異動証明書などの資料を手がかりに株式等の取得時期(名義書換時期)を把握し、その時期の相場を基にして取得費(取得価額)を計算することができます。
 これは、株券電子化後手元に残った株券の裏面で確認しても差し支えないとしています。

 相続により取得した株式を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡した場合に、課税された相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができます。

 この特例を受けるためには確定申告をすることが必要です。
 確定申告書には、相続税の申告書の写し(第1表、第11表、第11の2表、第14表、第15表)、相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書【土地・建物用】)や株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書などの添付が必要です。
 取得費加算額はこの計算明細書で計算できますので、トライしてみて下さい。

リフォームはいつやるか~空き家控除その2

2016-01-23

 平成28年度税制改正により、空き家控除という譲渡所得の特例の導入が見込まれています。

 この特例適用のためには、相続財産である家屋が現行の耐震基準を満たしていない場合、基準を満たすようリフォームをすることが必要でした。
 しかし、当然のことながら、リフォームのためには資金も要することから、相続税が課税される事案では、相続開始前にリフォームをしておくのはどうだろうかという疑問がでてきます。

 被相続人となる方の財産として、自宅と預貯金があるとします。リフォームにより預貯金が工事費用分減少しますが、それがそのまま建物の評価額にオンされるかというと、相続税の計算上はそうはなりません。

 建物の相続税評価額は、通常、固定資産税評価額により算定されます。そして、外壁塗装や水回りの工事、内装をきれいにする程度の部分的な改修工事の場合は、固定資産税評価額が改定されることはまずありません。これは、原則として、建物の床面積の増加あるいは減少を伴わないリフォーム工事や建物の基礎と柱を残しただけの改築工事が行われた場合には、建物の固定資産税評価額の改定が行われないためです。

 だからといって、相続開始直前に、リフォーム工事を行った場合はどうかというと、国税庁のホームページに次のような質疑応答事例があります。

 『増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価』

【照会要旨】
 所有する家屋について増改築を行いましたが、家屋の固定資産税評価額が改訂されていないため、その固定資産税評価額が増改築に係る家屋の状況を反映していません。このような家屋は、どのように評価するのでしょうか。

【回答要旨】
 増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない場合の家屋の価額は、増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、当該増改築等に係る部分の価額として、当該増改築等に係る家屋と状況の類似した付近の家屋の固定資産税評価額を基として、その付近の家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額(ただし、状況の類似した付近の家屋がない場合には、その増改築等に係る部分の再建築価額から課税時期までの間における償却費相当額を控除した価額の100分の70に相当する金額)を加算した価額(課税時期から申告期限までの間に、その家屋の課税時期の状況に応じた固定資産税評価額が付された場合には、その固定資産税評価額)に基づき財産評価基本通達89(家屋の評価)又は93(貸家の評価)の定めにより評価します。(以下略)

 つまりは、工事費用の70%で評価される可能性は残りますが、それでも、工事費用相当額を現金で持っている場合に比べると、相続財産の総額は減少することとなります。

 では、生前にリフォームをすることなく、空き家控除を選択するのはどのような場合だろうかと考えますと、まずは相続税がかからない場合、そして、耐震基準をすでに満たしており、リフォームの必要がない場合となりそうです。(生前にリフォームを済ました場合も空き家控除の適用はあります。)

 なお、空き家控除は、平成28年4月1日から31年12月31日の簡にした譲渡に適用するとありますが、かつ、相続開始があった日の属する年の12月31日の間にした譲渡とされていますので、平成25年1月2日以後に発生した相続から適用があるということになります。

原野…??

2016-01-14

  土地の現況調査をし、その土地の地目について迷うことがあります。

 特に、登記上の地目が畑であるのに、実際は耕作をしなくなって年月が経ち、灌木などが生い茂っている様を見た場合、どのように評価しようかと思うことがありました。なぜなら、畑ではなく、それが原野であるならば、その土地の評価額がぐっと下がることとなるからです。

 相続などで使用する財産評価基本通達では、その7で土地の評価上の区分について、「土地の価額は、次に掲げる地目の別に評価する。」としていますが、「地目は、課税時期の現況によって判定する。」と指定することを忘れていません。そして注書きでは、「地目の判定は、不動産登記事務取扱手続準則第68条及び第69条に準じて行う。」としています。

 では、その不動産登記事務取扱手続準則を見てみましょう。

 68条では「第68条次の各号に掲げる地目は,当該各号に定める土地について定めるものとする。この場合には,土地の現況及び利用目的に重点を置き,部分的にわずかな差異の存するときでも,土地全体としての状況を観察して定めるものとする。」とし、それぞれの地目について説明しています。

 そのなかで、畑とは「農耕地で用水を利用しないで耕作する土地」とあり、原野とは「耕作の方法によらないで雑草,かん木類の生育する土地」とあります。ちょっと見ただけでは、疑問となった土地の区分としてよくわからない気がします。

 しかし、「耕作の方法によらないで」とは、耕作に適さず、雑草やかん木類が生えるままの状態で長年放置されてきたと解するようです。ですので、耕作をやめた畑に、雑草やかん木類が生い茂り、原野のような外観になったとしても、それは農地であり、原野ではないということのようです。

 「耕作放棄地」は畑であって、「耕作不能地」が原野である。

 実際は、もっと難しいところもあるようですが、簡単な目安として覚えておくとよさそうです。 

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