Archive for the ‘相続税・贈与税関係’ Category
夫婦連帯住宅ローン
国税庁のHPに「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」(平27.11.9)が公表されています。
おそらく、一般の方がご自分で申告されることを想定したものだと思いますが、次のような項目があります。
被相続人の兄弟姉妹が相続した場合(2割加算1)、被相続人の孫が相続した場合(2割加算2)、被相続人と養子縁組を行った孫がいる場合(基礎控除)、生命保険金とともに払戻しを受ける前納保険料(みなし相続財産)、被相続人以外の名義の財産(預貯金)…等々。
これらについて、解説や根拠無しで結論だけ端的に示しており、それなりに有用な情報となっています。
この中で、今回は、「団体信用生命保険契約により返済が免除される住宅ローン」をとりあげましょう。
結論として、この住宅ローンは相続税額の計算において、被相続人の財産から控除できる債務、つまり、債務控除の対象とはなりません。債務控除の趣旨が、納税者の担税力を慮ったものということにあるところからも、それは当然のことですが、根拠としては、昭和44年5月26日付国税庁長官通達「団体信用生命保険にかかる課税上の取扱いについて」があります。
したがって、一般的な住宅ローンについては、相続税の申告において何も考慮する必要はありません。
では、ここからが応用問題です。
ご夫婦で住宅を購入された場合に、夫婦連帯住宅ローンを組むことがあります。このローンは、保険契約者及び保険金受取人を金融機関、被保険者を連帯債務者である夫婦とする団体信用生命保険契約を、一般的な住宅ローンに付けたものです。この保険契約により、ご夫婦のいずれか一方の方が死亡又は高度障害となったとき、住宅ローンの全額が免除されることとなります。
この場合も、一般の住宅ローンと同様に、どちらか一方に相続が発生した場合の相続税の申告で、何も考慮しなくていいのでしょうか?
生存されている住宅ローンの連帯債務者は、亡くなられた連帯債務者の死亡により、自身の債務の免除を受けることとなります。
そして、住宅ローンの生存配偶者負担分について、支払義務が消滅したことについては、相続税法8条のみなし贈与の規定「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で債務の免除等を受けた場合」に該当します。つまり、その部分は死因贈与を受けたとして、相続税の課税価格に加算されると考えるのが適当となります。
結論として、夫婦連帯債務の住宅ローンがある場合は、生存配偶者については、自身が負担すべき住宅ローンの残債分の利益を被相続人から受けたとして、相続税の申告をすべきということになります。
被相続人に係る債務・債務控除の留意点
どのような相続であっても、債務の引継ぎのない相続というものはありません。とはいえ、相続税の申告においては、まずは資産の評価について心が奪われ、債務の取扱いについては、おざなりとなることも、ありがちなことのようです。
というわけで、本日、「被相続人に係る債務・債務控除の留意点」について、研修会の講師を務めさせて頂きました。
中野サンプラザという大きな会場での研修で、たくさんの方にお集まりいただき、ありがとうございました。
研修では、実際に債務控除が争点となった裁決例、裁判例を多く取り入れ、実務での留意点を中心にお話させて頂きました。やはり、プロの方対象の研修会でしたので、地主の方の相続事案で、不動産所得との絡みがある部分などにご興味を持たれた方が多くいらっしゃったようです。
具体例につきましては、ここでも、順次、公開したいと思います。
また、「相続税申告で迷いがちな債権・債務」という本も、今年1月に清文社にて出させて頂いておりますので、あわせてご参考にしていただければ、と思っております。
遺留分減殺請求と生命保険金
遺言で財産を遺す方を決めても、気にかかるのは、相続人に保証されている遺留分です。
ところで、相続税の申告では、死亡保険金も相続財産に含めます。これは、被相続人の死亡により取得するものですので、税法では、その性質に着目して、相続財産とみなして、相続税の対象とするものです。
つまり、死亡保険金が相続財産と同様に取り扱われるのは、あくまでも税金計算上のことで、もともと相続財産ではありません。
したがって、遺留分減殺請求の対象とはなりません。
このことを利用して、生命保険契約をし、財産を遺したい方を死亡保険金の受取人とする場合があります。
ところが、被相続人の死亡により、保険会社から受け取った金銭が、死亡保険金とは限らないことにも注意する必要があります。
医療保険のなかには、保険金が給付される事由には、被保険者の死亡が含まれていない場合があります。このような保険では、被保険者の死亡で、保険契約自体が解約となり、保険会社からは、死亡保険金でなく、解約返戻金が支払われることとなります。
つまり、保険契約者と被保険者が同一人の場合において、被保険者の死亡に伴い支払われる解約返戻金相当額の返戻金は、みなし相続財産でなく、被相続人の本来の相続財産ということとなります。
死亡保険金と代償分割
被相続人が結婚前に加入した生命保険の死亡保険金の受取人が、実家の親名義となっていることがあります。でも、被相続人に子がいる場合など、受取人となった方も、孫を差し置いて保険金を受け取りたくないとお考えになることが多いようです。
「保険金受取人の変更は、保険契約者の一方的意思表示によって効力が生じ、その意思表示は必ずしも保険者に対してであることを要せず、新旧受取人のいずれに対してもよく、これによって直ちに効力を生じ、保険者への通知は保険者に対する対抗要件にすぎない」とした最高裁判決があります(昭62.10.29最高裁判決)。
つまり、保険契約者が生前ならば、一方的意思表示で、死亡保険金の受取人を変更することができるということです。
では、遺言により生命保険金の受取人を相続発生後に変更することができるのでしょうか。
最高裁判決から、被相続人の意思表示が証明できる場合は、受取人を遺言により変更することができると考えられています。実務においても、生命保険会社の事務手続きで、遺言による変更を認めている保険会社が増えてきているようです。
一方、被相続人の意思表示が証明できない場合は、生命保険金の受取人の変更はできないのでしょうか。例えば、生命保険金の受取人となっていた被相続人の母が、その保険金を孫に渡したならば、贈与とされることとなるのでしょうか。
実はこれ、まだ、駆け出しの資産税担当者であった私が、かつて遭遇したものです。幼い子供を残し、被相続人が早世した事案でした。税務署をはじめ、いろいろなところで相談し、また、いろいろな本を調べました。
結論として、この事案では贈与税は課税されないということとなります。その理由として、このような場合、被相続人の意思として、やはり自分の子供に保険金を受け取ってもらいたかったであろうこと、そして、相続人の皆の意思として、生命保険金を孫に渡したとしたら、それは、代償分割として整理することが可能であることをあげることができます。つまり、共同相続人の全員で、生命保険金に相当する金銭を代償財産とする代償分割による遺産の分割方法を選択したとすることができるのです。
この場合の相続税の申告は次のようになります。
○ 契約上の受取人
生命保険金全額をみなし相続財産として相続財産に加算し、受取保険金を代償財産として相続財産から減算
○ 受取人としたい相続人
代償債務として取得した生命保険金相当額を、本来の相続財産とする。
相続財産を売却して分ける場合
遺産が実家の自宅と敷地というような場合に、相続人の間で、現金化して分けようと決まったとします。では、実際の売買の手続きはどのようになるのでしょうか。
おそらく、相続人のうちの一人が代表者として、仲介業者や売買の相手側と交渉することとなると思います。そして、話がまとまって、実際の売買契約となる場合も、売主として、相続人の全員がサインするよりも、この代表者一人がサインをすることとなるでしょう。
そうなると、売買契約書を見た場合に、遺産を相続人の一人が相続して、代償金を他の相続人に渡している、つまり代償分割なのか、遺産を相続人の全員が相続して、売却代金を全員で取得した、つまり換価分割なのか、分からない場合があります。
換価分割か代償分割かでは次のようにその後の課税関係が全く異なりますので、遺産分割協議書にどちらであるか明記するなどして、相続人の間で明らかにしておくことも重要です。
代償分割 | 換価分割 | |
遺産の帰属 | 代償分割義務者のみ | 共同相続人 |
遺産を譲渡した場合の譲渡所得税 | 代償分割義務者のみ | 共同相続人全員 |
遺産分割の方法
実際に相続が発生した場合において、まず遺族の間で行われるのが遺産分割協議です。いわゆる形見分けのように、被相続人の財産を1つ1つ、各相続人に配分する方法を現物分割といい、もっとも基本的でシンプルな遺産分割の方法となります。
しかし、実際は相続財産の大部分を1つの不動産が占める場合や、被相続人の事業を相続人の一人が承継する場合などでは、現物分割は困難ですので、代償分割や換価分割の方法を採ることとなります。
代償分割とは、遺産の分割に当たって共同相続人などのうちの1人又は数人に相続財産を現物で取得させ、その現物を取得した人が、取得しなかった他の共同相続人などに対して債務を負担する方法です。債務を負担するといいましても、通常は自分自身の預金などから代償金として、幾ばくかの金銭を支払うことが一般的です。遺産分割においては、この代償分割の方法が採られることが、実際は多いのです。
換価分割とは、共同相続人全員が未分割の財産を譲渡、つまり売却し、譲渡代金を相続人で分配する方法です。換価分割では、共同相続人全員に相続税の他に譲渡所得が発生することとなり、その処理には注意が必要となります。
相続税申告要否判定コーナー
国税庁のホームページに、相続税の申告要否判定コーナーが開設されました。
これは、ホームページ上で画面の案内に従い、法定相続人の数や相続財産、被相続人の債務や葬式費用、3年以内贈与財産の価額を入力することにより、課税される遺産総額を計算し、相続税の申告が必要かどうかを判定するものです。
したがって、現時点では、申告をすることによって適用できる特例である小規模宅地等減額特例や配偶者の税額軽減特例の計算まではしていません。もっとも、7月以降に両特例の適用記載例の公表も予定しているようです。
入力のために必要な書類も掲げていますので、あらかじめそれらの書類を用意して、入力スタートをすると、スムースに判定ができます。
あくまでもこのようなコーナーは、相続税の申告要否を大まかに判定するものですが、具体的な数値を把握することができますので、利用されてみてはいかがでしょう。
生命保険等の一時金の支払調書と契約者変更記載
生命保険契約では、保険料負担者である「保険契約者」、保険事故発生の対象とされる「被保険者」、そして、「保険金受取人」の三者が誰であるかにより課税関係が変わります。これについては、本サイトを参考にして頂くとして、ここでは、保険期間中に保険契約者を変更した場合の課税関係について述べてみようと思います。
生命保険契約等について契約者の変更があった場合には、次のような課税関係が発生します。
(1) 死亡による契約者の変更
契約者と被保険者が異なる生命保険契約等について、契約者が保険期間中に死亡した場合、新しく契約者となった人がその契約の権利を引き継ぐことになります。このため、契約者が死亡した時点で、「生命保険契約に関する権利」として評価された金額(解約返戻金相当額)が相続税の課税対象となります。
(2) 死亡によらない契約者の変更
旧契約者の死亡によらない契約者の変更であれば、その時点では課税関係は生じません。契約者に対して、被保険者の死亡や満期等により保険金等が支払われたときに、初めて相続税や贈与税、所得税等の課税対象になります。
○ 受取保険金のうち保険金受取人以外の者が負担した保険料相当部分
受取保険金のうち、保険金受取人以外の者が負担した保険料の金額の保険事故発生の時までに払い込まれた保険料全額に対する割合に相当する部分は、その保険料負担者から、相続又は贈与により取得したものとみなされます。
○ 受取保険金のうち保険金受取人が負担した保険料相当部分
保険金受取人の所得税(一時所得)及び住民税の対象とされます。一時所得の計算では、受取保険金のうち保険金受取人が負担した保険料相当部分から、受取人が負担した部分の金額を控除し、さらに50万円を差し引いた金額の二分の一が課税対象となります。
ところで、現在、生命保険会社等から税務署に対して支払調書が提出されるのは、次の場合です。
(1) 1回の支払金額が100万円を超える死亡保険金、満期保険金、解約返戻金等が支払われた場合
(2) 同一人に対して1年間に20万円を超える年金給付金が支払われた場合
つまりは保険契約者を変更したとしても、生命保険会社等から支払調書は提出されません。
そのため、次のような問題が生じていました。
(1) 死亡による契約者変更の場合
生命保険契約に関する権利について、相続税の課税漏れとなることがありました。
(2) 死亡によらない契約者変更の場合
全額を一時所得の収入金額とし、旧契約者が負担した払込保険料を含む保険料の全額を収入を得るために支出した金額として、控除し申告している場合があります。
極端なケースでは、保険事故発生直前に契約者を変更することにより、本来、受取保険金相当額を新契約者が旧契約者から贈与されたとみなされるにもかかわらず、一時所得の申告で済ませている場合もあります。
そこで、平成27年度税制改正大綱では、生命保険契約等の一時金の支払調書等について、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載するという項目が入れられています。
(1) 保険会社等は、生命保険契約等について死亡による契約者変更があった場合には、死亡による契約者変更情報及び解約返戻金相当額等を記載した調書を、税務署長に提出しなければならないこととされます。
(2) 生命保険金等の支払調書について、保険契約の契約者変更があった場合には、保険金等の支払時の契約者の払込保険料等を記載することとされます。
この改正は、平成30年1月1日以後の契約者変更について適用される予定です。
割引電信電話債券
亡くなられた方の財産を整理しておりますと、日本電信電話公社の割引電信電話債券が出てくることがあります。
先日もそのような債券が出てきました。売出期間満了日 昭和54年9月29日、最終償還期限 昭和64年7月30日とあります。
民法上の債権の消滅時効は、10年と規定されています(民法167条第一項)。したがって、既に無価値となっているのではないかと疑われます。しかし、インターネット上に償還に成功したとする情報があり、その理屈が納得できるものでしたので、大丈夫と確信し挑戦していただくことにしました。
債券証書の裏面には償還窓口として、証券会社や銀行名が多数記載されていますが、現在ではすでになくなったものも多くあります。ですが、手当たり次第にこれらの銀行をあたっても、NTTに問い合わせてもうまくいきまん。結局は主幹事である日本興業銀行を引き継いだみずほ銀行で、償還していただくことができました。
手順としては、証書のコピーを銀行に預け、償還済みでないこと、事故債券でないことが確認された後、現物を提出して、取引口座に入金ということになります。地方の支店窓口で、手続きを完了させることができました。また、償還手続き自体の手数料はかかりません。
先に申しましたとおり、本来の消滅時効は過ぎていますが、時効を援用する手間との比較で、今でも償還可能となっているようです。
もし、そのような債券がでてきた場合は、あきらめずに挑戦してみてください。また、相続財産に加算することも忘れずに、ということになります。
結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税
平成27年度税制改正大綱にて、結婚・子育て資金を一括贈与した場合に、贈与税を非課税とする特例の制定案が公表され話題となっています。
この案は、2年前に導入された教育資金贈与の特例が高反響だったことから、その適用範囲を広げたもののようにみえますが、そのアイデアは、先の教育資金贈与特例に関する法案成立時に遡ります。平成25年2月の自民、公明、民主の3党合意により、「子や孫に対してお金をまとめて渡す際に贈与税が一定額まで非課税とする措置の対象を、教育資金だけでなく、結婚や出産に関する費用も加えることを、来年度(平成26年度)の税制改正の検討課題とする」というものがありました。
いよいよ、こちらが導入されるといったところです。
結婚・子育て資金の特例では、20歳以上50歳未満の人に対し、直系尊属である父母や祖父母などが、結婚・子育て資金の支払に充てるために金銭等を拠出し、信託銀行などの金融機関に信託等をした場合に、1人につき1千万円(内、結婚資金は300万円)までは贈与税を非課税とするものです。拠出期間は平成27年4月1日~平成31年3月31日です。また、受贈者が50歳に達した場合などに、結婚・子育て資金管理契約は終了しますが、使い残した残額については、贈与税が課税されることとなります。
ところで、結婚・子育て資金とは、挙式費用、新居の住居費、引っ越し費用、不妊治療費、出産費用、産後ケア費用、子の医療費及び子の保育料などとされています。これらは、扶養義務から「必要な都度」贈与された場合、基本的には非課税となります。
国税庁HPにも「扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」の贈与を受けた場合の贈与税に関するQ&A」が掲載されています。
したがって、この制度の特例たる所以は、事前に一括して贈与できることにあります。
もしも、結婚・子育て資金管理契約が終了する前に、贈与者が死亡した場合、使い残した残額は、相続税の課税価格に加算されます。しかし、孫やひ孫に対するものであっても、相続税額の2割加算の対象とはされません。