遺産の全容が判らないときの申告義務

2016-11-05

 相続人の間が疎遠になっていて、特に家を出た相続人と家を継いだ相続人がいる場合には、遺産分割についての争い已然の問題が生じることがあります。つまり、家を出た相続人は、遺産の全容すら教えてもらえないという事態です。そのような場合に、それぞれの相続人が別々に相続税の申告するとしても、家を出た方の相続人は何を申告すればいいか判らないので、どうやって申告するのだという疑問が生じます。

 確かに相続財産が判明しなければ申告の仕様がないとも思えます。だったら、無申告でもいいのでしょうか?

 こういった疑問に対し、大阪高裁平成5年11月19日判決では次のようにいっています。

「納税者に相続財産のい一部が判明し、それが基礎控除額を超えて申告すべき場合には、判明した分についてとりあえず申告をしたならば、その者に対し、全相続財産についての無申告加算税を課さないこととする一方、右の判明した分さえ申告しない者に対しては、残余の相続財産についての事情の如何を問わず、全相続財産を基にした「納付すべき税額」に所定の率を乗じた金額の制裁を課すこととしているのであって、これにより、無申告という事態を防止するための実効性をあげ、一部分だけでも期限内に誠実な納税申告書を提出するよう国民に促すとともに、その納税義務の適正かつ円滑な履行を確保し、健全な申告秩序の形成を図ろうとしているものである。」

 つまり遺産の全容が判らない場合は、判る部分だけでも申告しなさいということなのです。さらに、仙台地裁昭和63年6月29日判決では、次のようにもいっています。

「納税者が相続の事実自体を知る以上、相続財産の内容を自ら調査して申告をし、具体的な租税義務を確定させることが要求され、結果としてこれができなかった場合には、正当な理由があると認められる場合を除き、行政上の制裁である無申告加算税を賦課されることもやむを得ないところである。」

 要するに、できる限りの調査、努力をしたうえで、判った部分の申告をしなさいということです。家を継いだ相続人が遺産の全容を教えてくれない場合でも、無申告でいいとはされていない。そういう結論になります。

 

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