夫婦財産契約と税法の対応

2017-01-26

 前回ご説明したような夫婦財産契約がある場合に、所得税の計算もそれに従うべきと主張したらどうでしょうかはどのようになるのでしょうか?

 実はそのような事案を巡る最高裁判決があるのです(平成3年12月3日・最高裁判所第三小法廷)
 その契約の内容は次のようなものです。

第二条 夫あるいは妻がその婚姻届出の日より前から有する財産は、各自の特有財産とする。
第三条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産は、第四条に定めるものを除き、夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする。
第四条 夫及び妻がその婚姻届出の日以後に得る財産のうち、前条の例外として、それを得た者の特有財産になるものは本条各号に定めるものとする。
一 第二条に規定する特有財産の果実
二 いかなる名目であれ、身体・精神へ侵害・打撃を受けたことにより支払いを受ける金員及びその果実
三 死因贈与、遺贈、相続によって得た財産及びその果実
四 特有財産あるいはその果実について、売買、交換、譲渡その他の処分をしたことによって得た財産
 
 要するに、夫又は妻が得る財産は夫及び妻の共有財産とする旨の夫婦財産契約を締結したから、納税者である夫の得た収入の2分の1は妻のものであり、夫の所得はその収入の2分の1である旨主張したものです。

 最高裁では、「夫及び妻がその婚姻届出の日以降に得る財産は……夫及び妻の共有持分を二分の一宛とする共有財産とする」との条項について、夫又は妻が一旦取得した財産の夫婦間における帰属形態をあらかじめ包括的に取り決めたものであって、ある財産が夫又は妻が一旦得た財産であることまで変更するものではないとして、夫の所得税の係る所得については影響を及ぼさないとしました。

 この判決は、所得の帰属についてのものですが、財産の帰属についてはどうでしょう。確かに、夫が取得した財産の2分の1は妻に帰属することになるのでしょうが、相続税法9条には、「対価を支払わないで、又は著しく低い価額の対価で利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与(当該行為が遺言によりなされた場合には、遺贈) により取得したものとみなす。」とあります。

 つまり、帰属は決めたけれども、それについて贈与税が課される可能性がある、もっともこの例では、婚姻費用に充てられるのでしょうから、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」を非課税とする規定により、実際には贈与税の対象とならない、というのが税法の考え方です。

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2018 小林磨寿美税理士事務所 All Rights Reserved.