相続人の中に障害者がいる場合の相続税額の計算

2016-02-03

 相続税額の計算では、算出相続税額から、税額控除できる次の6つの特例があります。
 (1) 贈与税額控除、(2) 配偶者控除、(3) 未成年者控除、(4) 障害者控除、(5) 相次相続控除、(6) 外国税額控除
 相続をした人の事情により、相続税額からこれらの6つの税額控除をマイナスして納付税額を抑えることができます。

 一般的によく使われるのは、配偶者控除(配偶者の税額軽減)です。
 配偶者控除とは、配偶者の取得財産の価額が、1億6000万円と配偶者の法定相続分のどちらか高い金額まで非課税となる制度です。

 そして、よくいわれることが、とはいえ次の相続を考えた場合に、配偶者控除の上限まで配偶者の取得財産を持っていくことは、お勧めできないということです。
 つまり、配偶者は被相続人と同世代のため、取得した財産が次の相続の相続財産に含まれることとなる可能性が高く、第1次相続と第2次相続をトータルに考えた場合、却って税額が多くなってしまうというのがその趣旨となります。

 ところで、ここでは、配偶者が障害者の場合の、税額控除の利用について考えてみます。
 障害者控除とは、財産を取得した相続人が85歳未満の障害者のときは、相続税の額から一定の金額を差し引くことができる特例です。

 この特例を受けることができる人は次のすべての要件を満たす人です。

(1) 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人
(2) 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である人
(3) 相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合における相続人)であること。

 これらを満たす人は、満85歳になるまでの年数1年(年数の計算に当たり、1年未満の期間があるときは切り上げて1年として計算します。)につき10万円(特別障害者の場合は1年につき20万円)で計算した額を算出相続税額から控除できます。

 そして、この障害者控除については、面白い特例が付されています。上記のようにして計算した障害者控除額が、その障害者本人の「算出相続税額」より大きいため控除額の全額が引き切れないときは、その引き切れない部分の金額をその障害者の扶養義務者の相続税額から差し引くというものです。(同様な特例が、未成年者控除にもありますが、ここでは触れません。)

 つまりは、何らかの財産を取得した相続人の中に、日本国内に住所がある法定相続人である障害者がいるならば、その者の障害者控除の金額を、障害者本人だけでなく、扶養義務者である他の相続人の相続税額から控除できるのです。

 この場合の扶養義務者とは、配偶者、直系血族及び兄弟姉妹のほか、3親等内の親族のうち一定の者をいいます。

 相続税額の計算は、最初にご紹介した(1)~(6)の順番で行います。しかし、障害者控除を活用しようと思う場合は、配偶者控除の利用の前に障害者控除の全額利用を考えます。
 そのうえで、配偶者控除の利用額を考えることとなります。それは、配偶者が障害者である場合も同じで、配偶者控除と障害者控除はダブル適用ができるのです。

 極端な例として、相続財産が1億6000万円以下の場合に、すべての財産を配偶者が相続するとします。その場合は、障害者控除を利用する余地はありません。そして、第二次相続がおこった場合は、配偶者が取得した財産が相続財産に含まれることになります。

 しかし、第一次相続で、障害者控除額に対応する財産を子が取得することとし、残りを配偶者が取得することとした場合は、第二次相続に含まれることとなる配偶者の取得財産を少なくすることができます。
 子が、被相続人の配偶者、つまり親を扶養する義務があること(扶養義務者であること)は、言うまでもありません。
 また、子にとっても、残された親の扶養義務を果たす上でも、ある程度の財産を取得した方が、安心ということになります。

 上記は単純化した例ですが、このように遺産分割においては、それぞれの相続の事情を踏まえて、何通りかのシミュレーションをして、考えてみることが大切となります。

 

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