未支給年金
相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集では、興味深い事例が掲載されています。
事例7は「所得税の準確定申告書を提出し、還付金を受領している場合」です。この回答は、「所得税の準確定申告に係る還付金は、被相続人(父)に帰属する財産であり、相続財産に該当するため、第11表に記入します。」で、理屈を考えて納得される方も多いことかと思います。
ところが、事例8は「支給されていなかった年金を受け取った場合」で、回答は「未支給年金については、被相続人の遺族が、未支給年金を自己の固有の権利(その者の権利)として請求するものであり、被相続人の死亡に係る相続税の課税対象にはなりませんので、第11表には記入しません。」。これって、えっ、と思われませんか?
なぜ、遺族の固有の権利となるのでしょう。
その根拠は厚生年金法37条にあります。それには、「保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。」とあります。つまり、
(1) 未支給年金は、受給権者の死亡後に、遺族の請求に基づく裁定があって初めて社会保険庁の年金支払義務及び支給金額等が具体的に確定すること。
(2) 裁定の請求を行う者は遺族であり、年金を支給する旨の通知(裁定があったこ との通知)は、遺族に対して遺族名義で行われること。
(3) 仮に死亡した受給権者に未支給年金に係る債権が帰属すると考えた場合、遺族の法律行為(請求)に基づいて既に死亡している受給権者に法律効果が帰属することになり相当でないこと。
これらの理由により、相続財産ではなく、遺族の固有の権利とされているのです。
また、平成7年11月7日の最高裁判決でも、「国民年金法19条1項は、『年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。』と定め、同条5項は、『未支給の年金を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による。』と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである。」としています。
では、税法の規定はどのようになっているのでしょうか?
それは、相続税法でなく所得税法についての基本通達にあります。
所得税基本通達34-2(遺族が受ける給与等、公的年金等及び退職手当等)
死亡した者に係る給与等、公的年金等及び退職手当等で、その死亡後に支給期の到来するもののうち9-17により課税しないものとされるもの以外のものに係る所得は、その支払を受ける遺族の一時所得に該当するものとする。
そう、遺族の所得税の対象となるのです。もっとも、一時所得の金額は、「総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)」で求められますので、他の一時所得、例えば、生命保険の一時金などがない場合、実際に課税価額に算入されることはないのではないかと思います。