小規模宅地等3ー特定居住用宅地等

2017-05-12

 小規模宅地等の特例で、一般の方が一番適用できる可能性の高いのは、なんと言っても「特定居住用宅地等」でしょう。
ご夫婦のうち、一方に相続が発生しても、もう一方が相続税の負担により、住んでいた自宅を出なくともいいように、一応の手当がされているのです。ご夫婦でなく親族等で同居しているような場合も同じです。

 この特定居住用宅地等の特例の適用を巡り、よく問題となるのは次の場合です。

  1. 自宅が2階建て以上であって、そのいずれかの階に被相続人が単独で暮らしており、別の階に他の家族(親族等)が住んでいるような場合
  2. 被相続人と他の家族が助け合って生活しているが、別棟の家屋に住んでいたような場合
  3. 被相続人が老人ホームや病院等に入っていて、そのまま亡くなられたような場合

 1は同じ建物に住んでいたも、被相続人と他の親族等が住んでいた部分が、構造上独立になっているならば、同居しているかどうか曖昧になります。玄関や台所、お風呂などが別々ならば、特に迷います。
 しかし、この特例の適用上は、その被相続人と他の親族等が住んでいた部分が、それぞれ区分所有登記されているかどうかだけで判断します。区分所有登記されていなければ、一棟の建物として扱われ、別の独立部分に住んでいても「同居」していると判断します。

 2は悩ましい問題です。通常、別棟の家屋に住んでいた場合、消費生活を共にしていないので、生計一とはいえません。でも、被相続人が生前、要介護状態などにあり、独立して生活することができていなかった場合などは、生計一と判断できます。実務では、もっと微妙な場合が問題となります。
 よく、生計一のことを「お財布が同じ」といいます。この言い方が、理解を妨げているように思います。お財布が同じならば、つまり財産を管理していれば「生計一」なのか…? これは違います。
 夫婦がそれぞれに稼いでいたり、それぞれに資産を持っていたりして、生活費は折半で出しているならば「生計別」なのか…? これも違います。

 「生計一」とは消費生活を共にしているということなのです。ちょっと理論的にいうならば、何に対して課税をするかという議論で、取得型(発生型)所得概念と消費型(支出型)所得概念というものがあります。稼いできたものに課税するのが前者、消費したものに課税するのが後者です。そして、消費を共通に行なう人々の集まりを課税単位とする考え方があります。「生計一」とは、この消費単位課税の考え方からでてきているのです。この考え方ともとに、生計一の判定をしなければいけません。

 3は平成25年度税制改正により平成26年1月1日相続開始の案件から適用された要件に絡むものです。被相続人要介護状態の方が老人ホームで亡くなられた場合、老人ホームに入る前に居住していた家屋の敷地についても、特例の対象となるというものです。もっとも他の要件は満たさなければいけないわけですから、その家で同居していた親族が、相続発生時もそのままそこに住んでいたとか、配偶者又は同居していた親族がいない場合に、持ち家に住んでいない親族がその敷地を取得したとかでなければなりません。

 そこで、問題となるのは、同居していた親族がいない場合です。その場合は、その宅地の持ち主が老人ホームに入ることにより、その家が空き家になってしまいます。そうすると、家が荒れるので、その家に、親族等が引っ越してきたりしたくなります。あるいは、どなたかに貸そうかという話もでてくるでしょう。

 ですが、そうしてしまうと、相続開始の直前において、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等とはもはやいえないわけで、いくら老人ホーム特例があったとしても、適用除外となります。

 老人ホームに入る事情は様々です。実際に入居されている方も、そこを終の棲家と思っていらっしゃる方もあれば、老人ホームに入る前に住んでいた自宅が、やはり自分の家だと思っていらっしゃる方もいます。税務がそのような内面の状況を一人一人慮って判断するとしたら、とても煩雑になります。そこで、自宅を残したまま要介護状態で老人ホームで亡くなられた方は、やむをえず自宅から離れて老人ホームにはいっているのだというように一律に考え、留守宅であっても、ホームに入った人は要介護状態でなければ、いつでもそこに戻って居住することのできる場所なのだと考え、特例適用可能としているのです。ですから、その留守宅の用途が変わってしまったのなら、前提が崩れます。そのような理由で、留守宅にホーム入居前に同居していなかった親族が入り込んだならば、小規模宅地等の特例は使えなくなるのです。

 

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