遺産分割終了前に生活費の支払いが可能に!?(法制審)

2017-08-01

 相続が開始されますと、故人の預金口座が凍結され、医療費や葬儀費用、ご家族の当面の生活費等が下ろせなくなるため、凍結前にある程度のまとまったお金を引き出さなければいけないとよくいわれます。実際に、金融機関は、相続が開始されたことが判ると、特定の相続人により預金が引き出されトラブルとなることを避けるため、法定相続人全員の同意がなければ、故人の預金口座からの引き出しを制限します。このことは、現実に、故人と生活を共にしていた相続人の生活に支障をきたしたり、故人についての費用を、相続人が自身の財産から、立替払いしなければならないこととなっていました。

 さらに、平成28年12月19日の最高裁決定で、共同相続された普通預金債権、通常預金債権及び定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるとされたことにより、これらの金融機関が行っていた保全措置に根拠を与えるとことなり、故人に生活を依存していた相続人等に、ますます不便が生じることが懸念されていました。

 相続制度の見直しを検討している法相の諮問機関「法制審議会」の相続部会は、29年7月18日の部会において、故人の預貯金について、遺産分割前の仮払制度の創設について議論しています。

 現行の家事事件手続法第200条第2条には次のようにあります。

(遺産の分割の審判事件を本案とする保全処分)
第200条  (略)
2  家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、強制執行を保全し、又は事件の関係人の急迫の危険を防止するため必要があるときは、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産の分割の審判を本案とする仮差押え、仮処分その他の必要な保全処分を命ずることができる。
3 (略)

 部会ではこれに次の規律を付け加えるという試案たたき台を提出しています。

 家庭裁判所は、遺産の分割の審判又は調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、当該申立てをした者又は相手方の申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部又は一部を仮に取得させることができる。

 また、家庭裁判所の判断を経ないものとして、共同相続された預貯金債権の権利行使について、次のような規律を設けるという案も提出しています。

 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、その相続開始時の債権額の2割にその相続人の法定相続分を乗じた額(ただし、預貯金債権の債務者ごとに100万円を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。〔この場合において、当該権利行使をした預貯金債権については、遺産分割の時において遺産としてなお存在するものとみなす。〕

 あくまでも、仮払いとしての措置ですが、これにより相続開始時に生ずる財産上の不便に、ある程度対応できることとなりそうです。今後の法制審議会民法(相続関係)部会の議論を見守っていきたいところです。

参考:法務省ホームページ「法制審議会民法(相続関係)部会第23回会議(平成29年7月18日)開催

 

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